みつきの話はいつも唐突に始まる。


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 昔ね、私が本当の意味で子供だった頃、そして、私がまだストッキングを1足しか持っていなかった頃、私はパンプスを1足きりしか持っていなかったの。
 学校が早く終わった夕方、まるで寝つけない夜のように神経が高ぶる日、私はそのストッキングを履いて、ライトベージュに包まれた足を黒いコインシューズに入れるの。
 それは、ママの靴で近所を冒険する小さな女の子のような気分で、とても歩きにくいのに、一足飛びに大人になったように景色が変わって見えたわ。
 太陽は山の稜線の向こうで、そちら側の空が茜色の染料をひっくり返したみたいに真っ赤だった。赤い絵の具ではなくて、オレンジの絵の具でもなくて、その中間の色をもっと鮮やかに生きた色にしたような空だった。
 藍色が反対側から迫ってきていて、星はまだ一つも見えないのに、月だけがやたらと大きくて、不気味な色をしていたわ。
 あれは本当に月だったのかしら。とっさに月だと思ったんだけど、ちょっと信じがたいわ。
 製鉄所の煙がまだ見えていて、いつも通り背面跳びしている人みたいだって思った。いつも通りだったのはその煙と、あと道くらいね。
 道には迷わなかったのよ。目を瞑っていても歩ける町内一周だったわ。
 でも、帰りはとても疲れていて、ちょっと座って休みたいくらいだった。
 もちろん、そんな真似しなかったけど。
 足がだるくて、慣れないパンプスのせいというよりは、生気を吸い取られたみたいだって思った。
 私ね、昔そういうお話を読んだことがあって。
 生気を吸い取る靴の話じゃないわよ。
 小学生の女の子が、二十歳のお姉さんのハイヒールをこっそり履いてみたら、玄関で少し足踏みしているうちに、ぶかぶかだったハイヒールがぴったりサイズになっていて、気づいたら着ていた服もきつくて、なんとそのハイヒールが似合う年頃の姿に変身しちゃってたのよ。
 私、そういうのに憧れたの。
 魔法も大好きだったけど、それは自分も使えると信じていたから。
 女の子が大人の女になることに憧れたの。
 漫画やアニメの魔法少女なんて信じたことはないわ。あれは大人が作った嘘ごとの世界よ。ファンタジーは大人のためにあるのね。
 私は、単純に、成長に憧れたのよ。
 私もいつか大人になったら美人になるんだと信じてた。
 お化粧とスカートと踵の高い靴に憧れていたの。




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初めてのテキストになります。
「石室みつき」というヒロインについてあまり説明を入れたくなかったので、一人称語りで幼き日の思い出を。
もう少し子供っぽい口調にすればよかったかな。

(2005.04.25.)