発見された部屋は、ひどい有様だった。
 6畳ほどの洋室の真ん中に折りたたみ式の小さなテーブル。その上には、水滴のついたグラスと、百近い数の薬剤シートが散乱していた。そのすべてのシートに錠剤の抜かれた跡はあれど、錠剤の残りはなく。テーブルのギリギリ端に、わずかに粉末の残る乳鉢があるだけだった。
 少女は机の脇に転がっていた。
 睡眠薬や即効性の毒ではないから、相当に苦しんだのだろう。主に腹痛で。
 もがくうちに蹴飛ばしたらしい座布団には吐いた跡があり、少女は腹を庇うように横向きに丸くなっていた。
 薬剤シートから察するに、少女が医師から処方された抗てんかん薬を大量に服用したものらしい。が、これは比較的安全な薬として広く使われているものだった。
 少女は溜め込んだ800錠を一度に服用したようだが、死に切れず、胃洗浄で助かった。
 そんなものだ。
 死にたがりは世の中にいくらでもいるが、その中で自殺に成功した奴はそうはいない。
 大抵、中途半端に助かって(あるいは無様に助けられて)、それまでよりもっと惨めに生きなければならないのだ。

 本当は乳鉢は新調する予定だったのですが、当日の朝になったら忘れていました。仕方ありません。今までずっとお世話になってきた使い古しの乳鉢と乳棒に今日も働いてもらいましょう。

 コトリ、カツン。コトリ、カツン。
 少し足を引きずって歩く靴音が、今でも耳にこびりついている。

 美しいひと。
 あなたが目から離れないんです。
 あたかも眼球に焼き付けたように、あなたの姿が消えないんです。
 時には夢にも幻にも成り代わり、あなたはここにいるんです。

 やわらかな。
 やわらかな、。

 使い込まれた乳鉢で、ゴリゴリと良い音を立てているのは、医師から処方された薬。
 ハルシオンでも手に入ればよかったのですが、これで代用です。ごく普通の娘と認知されている身では、睡眠薬も向精神薬も手に入りません。

 許してください。
 許してください、唯由。
 私に謝る資格なんてないけれど。




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「うつくしきもの」の番外編のような感じ。
耳のない子の名前が「唯由(ゆゆ)」です。女の子です。
その母親が抗てんかん薬で自殺を図ったために後の障害として奇形児が生まれたということ。

(2005.05.10.)