「レプラ」
 降ってきた声に、慌てて天を仰ぐ。
 一日の作業を終えて鳶たちも撤収した工事現場。夕焼けの色が目にしみる西空を、イカルスは飽きもせず眺めている。
「やあ、イカルス」
 名を呼び返すだけでは不十分な気がして、付け足す。
「何の用? まさかまた退屈だって言い出すんじゃないだろうね?」
 僕は以前、つまんないと喚く彼のために、面白くもないクイズの相手をしてやったり、遊び道具になりそうな物を集めてやったりしたのだ。
「今日は違うよ!」
 彼はそう憤慨して言って、脇から大きな本を引っぱり出した。
 オールドファッションな装丁だが、僕も見覚えがある。ウィズじいさんの本だ。表紙には金文字で「AHORNE
(アホウネ)」と書いてある。要するにトンデモ本だ。
 ちなみに、これとよく似た装丁で「AHORN
(エイホーン)」というタイトルがある。そっちはこの世界の神話のようなものだ。本物はルディブリアム王国博物館にあるらしいが、複製なら教科書代わりに各町に配られているので、皆知っている。
「本で読んだんだ。生き物はずっと進化っていうのをしてるんだって。進化の過程でキリンの首も長くなったし、象の鼻も長くなったんだってさ」
 長くなってばっかりだなと思ったが、言わないでおいた。
「ねえ、レプラ、知ってた?」
 イカルスの目がきらきらと輝いている。僕が感心して「イカルスって賢くて物知りなんだね」とでも言うと思ったのだろうか。
 気の毒だが、進化論を知らない冒険者はいない。ワイルドボアとファイアボア、エビルアイとカズアイ、ああいった連中を見ていれば生物進化説は抵抗なく受け入れられる。



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トンデモ本の作者=ウィズじいさんとは、ヘリオス塔の図書館の司書ウィズのことです。
あれ、おじいさんだよね?
「AHORNE(アホウネ)」というのは作者の造語です。
もちろん“阿呆ね”を意図していたのですが、あとで調べたところ、「AHORNE」と綴ると「アホルネ」になってしまうようです。
「R」が無視できないわけですね。
だからこれもまた失敗作です。

(2006.04.25.)